
<戦うユダヤ人!>
ハリウッド製ユダヤ人受難戦争映画の最新作。日本での公開は2009年1月。さすがにユダヤ人もののネタは尽きませんなあ。それどころか本作は、これまではひたすら迫害されるばかりだったユダヤ人が、パルチザンとなってドイツ軍と真っ向から戦うというではありませんか。こりゃ新しい。
舞台は独ソ戦真っ只中のベラルーシ。ちょっとわかりにくいのですが舞台となる地域は元々ポーランド領で、1939年の独ソ秘密協定によってソ連側に割譲され、1941年6月の独ソ戦開始によってあっさりとドイツ軍占領地域となります。
主人公はビエルスキー四兄弟。長男トゥビア(ダニエル・クレイグ)、次男ズシュ(リーヴ・シュライバー)、三男アザエル(ジェイミー・ベル)、四男アーロンという豪華メンバー。物語はこの四兄弟(四男はまだ子どもなのでイマイチ活躍せず)の反目と協調のドラマを軸に展開します。
このビエルスキ四兄弟は森に潜みながらパルチザン活動を2年以上も続け、結果的に1200名ものユダヤ人同胞の命を救ったというのが史実のお話。ここにハリウッドならではのアクションやらロマンスやら何やらかんやらを盛り込んでエンターテイメントとしても楽しめるようになったのが本作です。
絵面的には、とにかくダニエル・クレイグが格好いいのなんの。白馬に跨って演説するのはちょっとやりすぎな気がしますが(笑)、革ジャンにMP40を抱える姿は実に絵になります。登場兵器は独ソの各種小銃・短機関銃、MG34、シュツーカに4号らしき戦車まで結構幅広いです。戦闘シーンの迫力はそこまで特筆する感じじゃありませんが、まあ最近の映画の平均レベルでしょうか。
<で、どこまで本当?>
映画の中で「俺たちは動物みたいに狩られるかもしれない。でも俺たちは動物じゃない。」あるいは自由云々という印象的なセリフがいくつかありますが、実際にはこんなことは言ってないそうです(笑)。脚色が山ほどあるということは知っておいた方がよいかもしれません。
ざっと調べてみたところ、映画で描かれる大筋は史実どおりのようです。つまり、ビエルスキ四兄弟はユダヤ人狩りを逃れて森に逃げ、そこを拠点に対独協力者(主にロシア人とポーランド人)に対して報復してまわりました。赤軍パルチザンと協同作戦を行なったのも事実。やがて兄弟のキャンプに訪れる同胞が増えていき、また長兄トゥビアの方針でゲットーにも潜入して同胞を救い出したと。その結果、最盛期には1230人ものユダヤ人が地下壕を備えたキャンプで暮らし(うち70%は女・子ども・老人)、食堂・病院・各種工房・学校・牢屋・裁判所まであったというから驚きです。それだけ大人数で逃げ回れたり設備を作ったりできるヨーロッパの森ってやっぱスゴイんすね。コテコテの日本人にはちょっと想像しにくいですな。
とまあビエルスキ兄弟はユダヤ人共同体を作り上げて、ある程度しっかりした生活をしてたようですが、やはり食料の確保だけは難しかったようで主な食糧確保手段は近隣住民からの略奪だったようです。この点は映画でも多少は描かれていますが、近隣住民とのトラブル(殺人・強姦・略奪)が多々あったせいで現在のビエルスキ兄弟に対する評価は決して好意的なものだけではないようです。ダニエル・クレイグはまるでロビン・フッドだなと思いながら観たのですが、確かに盗賊でもあったことは間違いないようですね。
で、共同体の長であったトゥビアはドイツ軍の賞金首であり掃討作戦が数度に渡って行なわれたのも事実。しかし映画のラストで描かれるようにドイツ軍と真っ向から戦うことはなかったようで、そこはやはりパルチザンらしく普段は暗殺とか破壊活動とかに勤しみながら、追われたら素直に逃げていた模様です(笑)。
<総評>
ハリウッド戦争映画としてはボチボチの出来。これまで映画の中では被迫害者でしかなかったユダヤ人のイメージを覆したという点でも観て損はないと思います。ただ、海外のレビュー、特にポーランド人が書いたものを読むと、これは史実を再現した映画ではなく、史実にインスパイアされた架空のお話としてみた方がよいのかもしれないと思います。史実に興味があれば原作本を読んだ方がよいのでしょう。
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