<おしらせ1>
またまた、いつの間にか掲示板がダウンしていたようですね。ログを見ると、およそ2年半ぶりの改修です。
この間、何度かメールでご要望があったようですが、この度ようやく重い腰を上げて掲示板を修復いたしました。
管理不行き届きで申し訳ありません。

<おしらせ2>
サイト管理を楽にするために体裁を変更しています。
本サイトのメインコンテンツであったSPWAWの解説記事は以下からアクセス可能です。
SPWAW解説記事一覧


<5分で調べたSPWAW界の近況>

びっくりしたことーその1「Depot リニューアル」
SPWAW界を長年牽引してきた世界最大のファンサイトSPWAW DEPOTが、昨年の4月に閉鎖、13年の歴史に幕を下ろしたようです。
と同時にDepotメンバーの一人 Falconさんが新たなサイトSPWAW DEPOTを立ち上げたようですね(笑)。
まあ、中心メンバーが入れ替わって、こじんまりした感はありますが、実質的にはリニューアルって感じですかね。
旧DEPOTの遺産は相続されているようで、今後ともがんばって欲しいところです。
https://www.tapatalk.com/groups/spwawdepot/

びっくりしたことーその2「砲撃要請画面ラグ解消」
マルチコアCPUが普及した頃でしょうか、ある程度以上のスペックのPCでは、砲撃要請画面で挙動がおかしくなる不具合がありましたね。
それが原因でSPWAWを離れた・・という方もおられたような記憶がありますが、どうやらこの不具合、ついに修正されたようです。
これもDEPOTメンバーのおかげみたいですね。Matrix Games 公認(というか黙認ですね)のもと 、本体ファイル MECH.EXE をいじることに成功したようです。
https://www.tapatalk.com/groups/spwawde ... -t277.html


というわけで、この機会にもう一度SPWAWをやってみようかな、と思われた方は次のリンクからダウンロードをどうぞ。
DEPOTで全てのファイルのホスティングも始めたようです。
https://www.tapatalk.com/groups/spwawde ... es-t6.html

【ドラマ】『ザ・パシフィック』

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【ドラマ】『ザ・パシフィック』

Post by Nor » 2010.Nov.29(Mon) 00:14

ザ・パシフィック(The Pacific) 2010 アメリカ
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スピルバーグ&トム・ハンクスの『バンド・オブ・ブラザーズ』コンビが手がけた太平洋戦争ドラマ。全10話。

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<はじめに>

太平洋戦争版『バンド・オブ・ブラザーズ』(以下、BoB)として期待されていた本作。米国では今春に、日本ではWOWWOWが今夏に放送し年末にも再放送予定です。今回の戦場はタイトルどおり太平洋なんですが、太平洋の戦いを広く扱っているわけではなく、登場する戦場は、ガダルカナル、ニューブリテン島グロスター岬、ペリリュー、硫黄島、沖縄の5箇所。つまり全部陸戦です。

BoBは陸軍第101空挺師団第506パラシュート歩兵連隊第2大隊E中隊という150人くらいの規模の部隊の戦いを、ウィンタース中隊長という圧倒的な主役を軸に描いたのに対し、本作では第1海兵師団の第1・第5・第7連隊の戦いを描きます。でもまあ連隊の戦いっつうと規模がでかすぎるので、戦闘シーンはやっぱ中隊規模、主な登場人物も10人程度に絞り込まれているのですが、主役は別々の連隊に属する3人。つまりストーリーラインは3本あるのです。

BoBも本作も全10話構成で、本作では主役が3人いるのですから、単純に考えれば一人当たり3話少々のボリュームしか登場場面がありません。BoBに比べるとどうしても主役の人物描写が薄くなってしまい、エピソードによって主役が変わるので話の筋を追うのもややこしいことになってしまいます。感情移入しにくいというレビューが多いのはこの構成が一因なのは間違いないでしょう。

そのややこしい脚本を書いたのはヒュー・アンブローズ。BoBを手がけたスティーヴン・アンブローズの息子。親が死んだら子がやるんすねえ。親父の方が上手かったかもしれない。それはともかく、脚本の元になっているのは主人公であるユージーン・スレッジの手記 『ペリリュー・沖縄戦記』 とロバート・レッキーの手記『Helmet for My Pillow(本邦未訳)』。さらに、もうひとりの主人公ジョン・バジロンは名誉勲章の受章者で、こちらは各種記録や証言を元に活躍が再構成されているようです。

<BoBとの違い>

多くの人が「BoBの続編」という謳い文句に期待して観て、そのほとんどがちょっとがっかりしたようです(笑)。確かに、実話をもとにしたドキュドラマで、特定部隊(BoBでは101空挺、本作では第1海兵)の戦闘を追い、各話冒頭に生存者の証言が入るというスタイルはBoBと全く一緒。しかし観終わった印象はかなり違います。この差は何なのか?

一つには、上述のようなストーリーラインの複雑さと人物描写の密度の希薄さという点があります。どうせなら後半のメイン主人公になるスレッジだけに焦点を当てりゃもっとわかりやすくまとまりもでたろうに、という感想がよく聞かれます。確かにスレッジとその相棒のスナフは一番キャラが立っているので、エンターテイメントとしてはここだけに絞っても良かったかもしれません。しかしそうすると、ペリリュー島と沖縄の話だけになっちゃうんだな。そりゃやっぱり太平洋の戦いと言うには短すぎるでしょう。

BoBとの違いの二点目はまさにここで、描かれる戦場が少なく各戦闘の間隔もかなり空いていることです。そもそも太平洋の陸戦とは上陸作戦で、一つの作戦に多大な準備期間が必要だから仕方がないっちゃ仕方ないんですが、ただでさえストーリーが3つもあるのに連続性も薄いとなると緊迫感という点でもイマイチ。間をつなぐように休養中の部隊や本国の様子なんかも描かれますが、いかに事実とはいえ物語のテンポを悪くする原因になってるような気がします。

パシフィックと銘打つくらいだから、本当を言えば製作陣はメジャーな戦闘は入れたかったに違いありません。艦隊戦や空戦は予算の都合で入れられないにしても、陸戦ならアメリカ人の好きなタラワだとかフィリピンは押さえたかったでしょう。しかし、こういった戦いは参加部隊がバラバラで、一つの部隊に焦点を当てたBoB形式を踏襲しつつストーリーにまとまりをつけるためには、第1海兵師団の戦いという大きな括りで妥協するしかなかったのでしょう。

そうすりゃ反攻のきっかけとなったガダルカナルと最後の陸戦となった沖縄はいれられるし。でもイーストウッドの映画で再評価された硫黄島は第3・4・5海兵師団か。ああ、元第1師団で名誉勲章もらったバジロンはその後第5師団に移ったから主人公格にすりゃいけるじゃん。うん、それでいこう。みたいな感じで、第三の主人公は決まったのかもしれません(妄想です)。まあでも、硫黄島の戦闘シーンは時間にして10分くらいしかないので、ホントにおまけみたいな扱いで(でも結構スゴイですんですが)、わざわざ硫黄島の戦闘シーンを入れる必要があったのかなんとも疑問です。やっぱイーストウッドに対抗したかったのか?

ちなみに、ニューブリテン島グロスター岬の話も戦闘らしい戦闘シーンはなく正味20分くらいの話なので、結局ボリュームのある戦闘シーンがあるのは、ガダルカナル、ペリリュー、沖縄の3つの戦場に限定されます。このうち、ガダルカナルは2話分、ペリリューは3話分、沖縄は1話分なので、残り4話分はほとんど戦闘シーンがありません。う~ん、やっぱこれで『ザ・パシフィック』というのはちょっと誇大広告かな(笑)。

まあしかし、太平洋の戦闘にほとんど絡んだ部隊なんてないんだから、一つの部隊に焦点を当てるという形式を取る限り、どの部隊を取り上げても似たり寄ったりになるのです。そう考えると、BoBの101空挺師団は、ノルマンディ、マーケットガーデン、バルジ、強制収容所解放、ヒトラー山荘強襲なんて、大戦後期のメジャーな作戦と重要なトピックにほとんど絡んでいるんだから、素材としては最高だったことが改めてよくわかりますねえ。

さて、BoBとの違いの三点目はそもそものテーマです。4割くらいは戦闘に絡まない話になっているのが意図的なのは間違いありません。BoBはプライベート・ライアンのヒットを受けて戦場をリアルに描くという部分に力が注がれました。本作ではその流れを受け継ぎつつも、重点は兵士の内面の変化を描くことにあるようです。海兵隊に志願した若者が初めて凄惨な戦場に直面したときどう対処したか。そして戦闘を生き抜くことでどう変わっていったか。戦後の社会にどう適応していったか。これらは、昨今のアフガン・イラクの帰還兵問題につながる極めて今日的なテーマだといえるでしょう。


<戦闘シーン>

私も見終わって全体的にはちょっとがっかりしたクチですが、それでも戦闘シーンは十分に見ごたえがありました。映像や音響の迫力なんかはプライベート・ライアンやBoB以上でしょう。観てるだけでもう怖いし痛いな感じです。戦場の再現性もスゴイの一言。珊瑚礁岩でできたペリリュー、黒い火山灰土壌の硫黄島なんかはよくぞこんな金かけて見せてくれました、本当にありがとうな感じ。そこで爆発するする、岩や砂が舞う舞う、人はちぎれるし吹き飛ぶしでもう大変です。最大の名戦闘シーンは、ペリリュー島強襲上陸から飛行場奪取のくだりでしょう。第5話と6話ですね。ここは何が何でもみるべきです。プライベート・ライアンの上陸シーンに勝る大迫力で映画史に残るんじゃなかろうかと思います。

ガダルカナルではイル川の一木支隊とマタニカウ川の住吉支隊が相手になります。ここはまあ史実どおりと言えばそうなんでしょうが、日本兵は何もできずひたすら機関銃の餌食になっていくのが壮絶、というより悲惨か。どうせなら日本兵にはライフルさえ撃たせない方がリアルだったとは思います。でもそれじゃあまりに一方的な殺戮になりすぎて製作陣も気が引けたのかもしれません。あ、そうそう。ガダルカナルでは第一次ソロモン海戦の様子をガ島から遠望して落胆する海兵隊というシーンもあります。もちろんCGなんですがこれは絵面的には新鮮でした。ちなみに艦隊戦シーンはここだけです。

前述のシーンを除くと、ペリリューの後半や沖縄では日本兵は基本的に洞穴陣地にこもっているので、小規模な撃ちあいがある他は、海兵隊が一方的に陣地を潰していく地味な作業があるのみです。それが海兵隊兵士の正気を蝕んでいくというのは深く納得なのですが、絵的には同じことの繰り返しになるのでまったくもって面白みがありません(笑)。このへんがバリエーションがあって絵的に華やかな対独戦とは大きく違うところで、兵士の内面描写重視ってのも、実はこういう部分が影響してるのかなとも勘ぐりたくなります。

あ、そうそう。ペリリューでは立派な九五式軽戦車が登場します。ちゃんと随伴歩兵を連れて結構なスピードで走るし(一瞬だけ)3両も出てくる。慌てる海兵隊。軽迫で随伴歩兵が削られ、跨乗兵も狙撃され、バズーカで履帯がやられる。足が止まった。しか~し、機銃をバリバリ撃ちまくりながら主人公スレッジの軽迫班に37mm砲塔を旋回!恐怖に目を剥いて逃げ出す海兵隊!ッテ~!近すぎた!次は当てるど~装填完了、ヨッシャ~!!となったところでちゅど~ん!シャーマンの登場でオシマイにあいなるわけですが、この数分間はハ号が紛れもなく主役でした。

というわけで、戦闘シーンは総じて素晴らしい出来栄えで、惜しみなく金をかけているのがよくわかります。海兵隊側の装備はもちろん、日本兵の軍装なんかもちゃんとしてるし、日本人エキストラ多数なのでちゃんと意味のある日本語をしゃべります。まあ多少は?という部分もないことはないですが、現状で本作よりよくできた太平洋戦線の陸戦モノはないと言い切れるんじゃないでしょうか。よくぞ作ってくれましたの一言です。



<壊れていく兵士>

砲撃で吹き飛ぶ手足、機関銃掃射で飛び散る肉片、血まみれ泥まみれウジまみれのバラバラ死体。本作はケーブルテレビ用のドラマなので、通常の映画では表現が難しいリアルな描写も目白押しです。さらには糞尿を弾薬箱にいれて塹壕から投げ捨てたりするのは、よく考えれば当たり前のことなのに、映像としてはありそうでなかった名シーンだと思います。なるほど、戦場ってのは血と汗と泥だけじゃくて汚物にもまみれているのですね。熱帯の島では死体もすぐ腐る上に、激戦の最中には敵味方あわせて数万人がそこらに汚物を垂れ流すわけですから、実際には強烈な悪臭も加わるわけです。

とはいえそんな劣悪な環境でも、米軍側は最低限の衣食住が用意され、負傷兵は可及的速やかに後送され、損耗率が高くなった部隊はすぐ交代させ、数ヶ月に1度は再編休暇が与えられるわけですから、心情的に日本寄りの観客からすれば、ちょっと水がないとか食い物がまずいとか暑いとか臭いとか・・そんなことで文句を言うなんて!とか思ってしまうのですが、当事者としてはそんな相対的に見てどうこうという意識はないのが当然です。

そしてもうちょっとよく考えると、むしろ日本兵より米兵の方が理不尽な想いというか不条理感は強くて当然だったのではないかと思えるのです。なにせ物質的にはそこそこのものはあり、少なくともガダルカナル以降は戦況は日増しに我に有利になっていくのであり、大局的には日本に負けるわけはないというのは一兵士にも確信されていたでしょう。そういう状況におかれた兵士の心情は、あえて不謹慎な言い方をするならば、負けるはずのない戦争ゲームの駒になったようなものかもしれません。自分たちの陣営は最終的には必ず勝つけれども、その過程で運の悪いやつは死ぬ。自分は戦争が終わるまで生き残れるのか?

もっと極端に言えば、100人中90人まで死ぬことが約束された軍隊と、100人中10人しか死なない軍隊のどっちに入って戦う方が気持ちが楽か?いや、どっちもイヤなのは間違いないですが、いざ弾が当たった時に前者の兵士は「来るべきものが来るべくして来た」と思えそうですが、後者は「なんで俺が?」という想いの方が強いのではなかろうかと。前者の兵士は最初から諦めているのに対し、後者はむしろババを引いてしまった感が強いんじゃないかと。だからこそ激戦を生き延びた日本兵は後になって「なんで俺だけ死ななかったのか」と激しい自責の念に駆られるのかもしれません。

話が逸れてしまいましたが、戦場は名前も知らず縁もゆかりもない太平洋の孤島。こんな島を占領することが祖国に貢献することにいかほどの意味を持つのかわからない。そして敵は文字通り死ぬまで降伏しない日本兵。やつらを全員殺すまではこの島から出られない。勝利への確信は日本本土へ近づくほど高まる一方で、日ごと確実に死んでいく戦友。この焦りや怒りが敵対する日本兵への激しい憎悪を生み、次第に自覚のない狂気に陥っていくのはやむを得ないことかもしれません。

と、言葉にすればちょっとチープですらあるこうした感情を表現することに、本作はある程度成功しているんじゃなかろうかと思います。日本兵の死体(時にはまだ生きている兵士)の口にナイフを突き刺して金歯をこじり取るシーンや、敵に位置を悟られるのを避けるために発狂して叫ぶ戦友をシャベルで撲殺するシーン、頭蓋骨の上半分が吹っ飛んだ日本兵の死体に向けて暇つぶしに小石を投げ込むシーンなど、これまで文字の世界では表現されてきたものの映像化はされにくかった明らかに異常な兵士たちの行動が随所に描かれています。

なにしろ主人公の一人ガダルカナルから参戦したレッキーは、ぼちぼちの活躍でガ島を後にすると、メルボルンで女を追いかけ回して失恋した挙句、逆上して上官に反抗して営倉に入れられ、たいした戦闘もなかったニューブリテンでは不快なジャングル生活によって精神に変調をきたし夜尿症にかかるのです。しばらく療養の後再び志願してペリリュー戦に参加するのですが、たいした活躍もないまま負傷して後送。なんとそのまま病院で終戦を迎えるのです!いや、馬鹿にしているわけではないのです。ただ、これまでのアメリカ戦争映画だったら絶対に主人公にはならないキャラなのは間違いないでしょう。このおもいっきり普通の若者を主人公の一人に据えたことをみても、本作が何を主張したいのかわかるでしょう。

こういった数々のいろんな意味で「リアル」な描写は当然のごとく一部の米国人の猛烈な非難を巻き起こし、米本国での興行成績はイマイチだったようです。確かに主張を前面に出したためにエンターテイメント性を犠牲にした部分も多くありますが、製作陣の媚びない勇気というか新しいものを作ろうという精神は評価していいんじゃないでしょうかね。ちゃんとそこそこ面白いんだし(笑)。

BoBではそんなこと考えなかったですが、本作を観るとアメリカって昔も今も同じような戦争やってるんだなあとシミジミしちゃいます。そのことを再認識させてくれるのも本作の重要な意義でしょう。WOWWOW見られない方は、いずれDVDがでたときにでも是非。
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