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【映画】『縞模様のパジャマの少年』 ・『アダム・リザレクテッド』

Posted: 2009.Dec.13(Sun) 01:24
by Nor
フィクション系ホロコーストもの二作。


縞模様のパジャマの少年(The Boy In The Striped Pyjamas) 2008 イギリス・アメリカ
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同名小説の映画化。マーク・ハーマン監督。ベルリンで何不自由なく暮らす8歳の少年ブルーノの父はドイツ軍将校。父が昇進して何もない田舎へ引越ししなければいけなくなった。学校も行けず友達もおらず兵士の警備する自宅から外出することさえ制限され退屈な日々を送るブルーノは、ある日自宅の傍にある鉄条網で囲われた大きな「農場」で同い年の少年シュムエルに出会う・・・。

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<一人で勝手にライフ・イズ・ビューティフル>

いきなりぶっちゃけてしまうと、オヤジは親衛隊中佐で強制収容所の所長。しかしヨメも収容所で何をしてるかは知らず、主人公ブルーノに至っては収容所であることさえも知らないし気づかない。ある日ブルーノ少年はパジャマ姿の少年と鉄条網越しに出会い、これ幸いヤツと遊ぼうとせっせと通いつめる。そして終いには鉄条網を越えて・・というお話。

原作は未読ですが、これ文字で読めば寓話としてある程度納得できそうなものの、映像にしちゃうと設定の突飛さが気になって仕方ありません。最大の問題はブルーノ君の無邪気さが素直に受け入れられるかという点にあります。おそらく監督もその辺が気になったのでしょう。原作小説ではブルーノは9歳という設定のようですが映画では8歳になってます。小学校2年生というところ。9歳じゃさすがに説得力ないよなという感じの変更でしょう・・・でもやっぱり「8歳でもさすがに気づくだろ!!」という思いが最後まで続きました(笑)。

確かに、善意に溢れる無知な存在として子どもを登場させ、ホロコーストを描くというアイデアは面白いしインパクトもある。だけど欲をいえば、いっそのこともっと寓話的にして欲しかった。制作陣は設定にムリがあるなあと気づきつつも何とか説得力を持たせようとしているのが完全に裏目。邸宅の周りは兵士がいて収容所には監視塔もあるけどブルーノは自由に動き回るし、シュムエルのパジャマ姿も縫い付けられた番号も何かのゲームをしてると思い込み続ける。最後にはたまらなく仲間に入りたくって鉄条網の下に穴まで掘っちゃったり・・。

感動の名作かあざとさだけが残る駄作かは観る人の心のキレイさによるかもしれません。些細な設定のほころびには目を瞑って想像を膨らませ、子どもの無垢な心とホロコーストの恐ろしさを問答無用で認めれば、なるほどなかなかの感動作です。が、私のように汚れちまった心を持つ人には何かそらぞらしいチープな印象だけが強く残りました。中途半端なリアリティを求めてせっかくの視点を台無しにしてしまった感じがします。もったいない。




アダム・リザレクテッド(Adam Resurrected) 2008 ドイツ・アメリカ・イスラエル
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同名小説の映画化。ポール・シュレイダー監督。ジェフ・ゴールドブラム、ウィレム・デフォー出演。日本未公開。

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<はじめに>

ここ数年、結構な数の戦争映画に出る出ると言われながらなかなか出てこなかったウィレム・デフォーがついに出た。それも収容所所長役。原作があまりに前衛的なため豪華二大スターの共演作ながらアメリカでも限定公開に終わった隠れた名作(?)。確かに一般公開してもヒットする要素が皆無なのは間違いない(笑)。ですが意外にツボにハマる人はいるんじゃないかなあ。


<リアリティって何ですか?>

まずストーリーがスゴイ。主人公アダム(ジェフ・ゴールドブラム)はホロコースト生存者だけを集めたイスラエルの精神病院でなにやら楽しげな日々を送っているが、ある病室で鎖に繋がれ犬のように暮らしている少年の存在を知ると、アダムの態度に変化が起き始める。サーカス芸人だったアダムは収容所長(ウィレム・デフォー)の「犬」として過ごすことでホロコーストを生き延びたのだった・・・。

って、どうですか!?所長の「犬」っつってもスパイの意味じゃなく、本当に四つん這いで犬の真似をして生活してたわけです。もうこれだけで半分以上の方が観る気を失くしたと思いますが(笑)、最初から観客を置き去りにするようなこの突飛さこそが本作の特徴です。これぞ寓話。この中途半端なリアリティなど必要ないという潔さは「縞模様のパジャマの少年」に見習って欲しかった点ですね。

で、映画の半分ほどは精神病院でのお話で、ホロコースト体験談は回想シーンとしてしか登場しません。だから当然ウィレム・デフォーも期待したほどは登場しませんが、その分、主演のゴールドブラムが精神病者特有の早口で喋り倒し、一世一代の名演を見せてくれます。精神病院の患者が医者や看護士の統制を離れ自由気ままに振舞うという構図は「カッコーの巣の上で」を思い出させます。

タイトルの意味は「アダムの復活」くらいの感じで、かつての自分と重なる「犬」少年の面倒をみることで、一度は死んだアダムの心が復活すると言ってしまえばベタですが、まあそんな感じの内容です。アダムはプライドも何も投げ捨てて「犬」となった見返りに、収容所長から生命の保証を得た反面、妻と次女はアダムの目前でガス室に送られます。戦後、所長の秘匿財産を手に入れたアダムは生き延びた可能性のある長女を探しますが、母を見捨てて犬となった父に会いたがるはずもなく・・という展開は、ホロコースト生存者の贖罪の物語といえるでしょう。

とにかく言葉で説明するのは難しい映画ですので、興味のある方は機会があれば是非観てください。手垢のつきまくったホロコーストものとしては異彩を放つ、フィクションの持つ力を存分に活かした名作です。