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【映画】『ザ・ハート・ロッカー』

Posted: 2009.Nov.15(Sun) 00:10
by Nor
ザ・ハート・ロッカー(The Hurt Locker) 2008 アメリカ
キャスリン・ビグロー監督。ジェレミー・レナー主演。イラクで従軍する爆発物処理班(EOD)。
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<はじめに>

爆発物処理班なんて渋いとこ突いた映画で、イラク戦争モノにも関わらずアメリカで絶賛されているらしいという噂が耳に入ったころ、偶然鑑賞の機会を得ました。でもこれ、日本の配給元が潰れたらしく日本未公開で、DVDリリースも未定だそうです。キャスリン・ビグロー監督にとっては全然女っけの無い映画だった「K-19」以来6年ぶりの監督作。本作もほとんど女っけはありません。ガイ・ピアース、レイフ・ファインズ、デヴィッド・モースという豪華メンバーがカメオ出演しているのも見所。


<とりつかれた男の話>

現在でも爆弾テロが断続的にニュースになっていますが、イラク戦争に従軍する米兵にとって自爆テロやIED(即製爆弾)は最も身近な恐怖。本作の主人公ジェイムズ軍曹(ジェレミー・レナー)はすでに800個以上の爆弾を処理してきた爆発物処理のエキスパート。ただ、人間的にはちょっとどっかおかしい。実際に防護服を着て爆弾を処理するのはジェイムズの役目ですが、処理班は3名編成のチームなので他の二人と無線で連絡をとりながら周囲を警戒してもらったりと常にチームで行動するわけです。ところがジェイムズは他の二人なんか知らん顔で何でも一人で対処しようとするところから不和が始まり・・・というストーリー。

本作の魅力は爆弾処理過程の緊張感に満ちたリアルな描写にあるのですが、これみてると精神的におかしくなるのは当然だと思ってしまいますね。最初にジェイムズの前任であるガイ・ピアースがあっさり吹き飛ばされるところから始まり、爆発シーンはなかなか過激で良い感じです。「手に汗握る」という表現がしっくりきます。ひたすら爆弾処理し続けるんかなあと思ってたら、途中でスナイパーになったり歩兵になったりと大活躍(笑)で最後まで飽きさせません。リアリティの面ではそれってどうよ、とは思いますが。

イラク戦争を描いた本作が珍しくアメリカで成功したのは、やはり政治性の薄さに原因があるのでしょう。見ようによっては反戦モノとも士気高揚モノともとれるし、あるいはそういった政治的なメッセージでは括れない兵士の実態を描いているとも、ただ単に悲しい一人の男の生き様を描いているともとれるでしょう。少なくとも声高に何かを訴えている感じを受けないところが「鬱陶しくない」と評価され、純粋に映画を楽しめることに繋がっているようです。

個人的にも充分面白かったのですが、「イラク版プラトーン」とかいうのはちょっと褒めすぎだと思います。一つ一つのシーンを取り上げれば緊張感もリアリティも素晴らしいとは思いますが、全体的な構成としてはご都合主義的・エンターテイメント性重視な気がしました。「K-19」を観た時にも思ったけど、きっとこの監督は「極限状態に生きる男の渋さ」が描きたかっただけじゃなかろうか(笑)。

海外のレビューではお約束の現役兵士によるダメ出しでは、レイフ・ファインズは傭兵のくせにマヌケすぎる(笑)とか、やっぱスナイパーになるのはおかしいとか(しかしEOD兵はスナイパー訓練を受けるらしいとの証言もあり)、EODチームだけでテロリストを追っかけることはないとか、まあ予想通りの非難がありました。しかしこういうのは些細なことで、古典的な戦争映画好きは必ずや「しっぶ~!!」と唸る場面が満載なので、観る機会があればオススメです。


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