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【映画】『キングダム/見えざる敵』 ・『ワールド・オブ・ライズ』

Posted: 2009.Nov.01(Sun) 16:28
by Nor
キングダム/見えざる敵(The Kingdom) 2007 アメリカ
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政治スリラーにみせかけたアクション映画。サウジで起きた米国市民に対する爆弾テロの捜査にFBIが向かう。ピータ・バーグ監督。ジェイミー・フォックス主演。

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<合言葉は皆殺し>

序盤はポリティカル・スリラー、中盤は「CSI:リヤド」、終盤は「沈黙のなんとか」風味。もっともらしくみえるオープニング、分かりやすい伏線、一見意味深なラストのオチによってそこそこ評判は良いみたいですが、私にはただのアクション映画にしか見えませんでした。でも全編サウジロケならすごいなと思ったら、実際はほとんどサウジでは撮影できなかったらしく、終盤のカーチェイスからアリババ一網打尽シーンはマイアミでの撮影だとか。がっかり。

それでもひとつ見所をあげるとすれば、ラストの銃撃戦でRPGと手榴弾が乱れ飛ぶところでしょうかね。主人公たちは全くノーダメージっつーのがいただけませんが、銃撃戦自体は迫力があります。ちなみに当初の脚本では、アル・ガジ大佐は生き延びて、主人公たちを空港に見送りにきた大佐の部下(拷問されてた人)が自爆テロを行なって、クリス・クーパーが吹っ飛ぶというオチだったそうです。そっちの方がいいじゃん!と思ったのは私だけか?

まあどっちにしても全編通じて突っ込みどころが多すぎて、はっきり言ってクダラナイという以上の感想はありませんが、あえてこの時期にこういう映画を撮ったのは単に時代の空気が読めなかっただけなのか、今ならまだ煽れると思って確信犯的に作ったのか知りたいところです。それにしてもラストのセリフに象徴されるこの映画の理念は、今のアメリカ人より自爆テロを連発する急進イスラムの方々の方が共感すると思うな(笑)。


ワールド・オブ・ライズ(Body of Lies) 2008 アメリカ
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中東ヨルダンを舞台にしたスパイもの。CIAの現地工作員フェリス(ディカプリオ)は、ラングレーの上司エド(クロウ)に不信を抱きつつもテロリストを追う・・。リドリー・スコット監督。レオナルド・ディカプリオ、ラッセル・クロウ出演。

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<さすがのリドリー・スコットでも>

ヒットメーカーの監督と俳優を起用したハリウッドのアクション大作。しかし評価も興行収入も低調。2006年頃からボチボチ作られだした現実を反映した中東モノというのはご当地アメリカでは軒並み不発に終わっており、このメンツを集めれば少なくとも映画としては面白くないはずはないのですが、それでもやはりダメだったようです。とはいえ私は結構面白く鑑賞できました。

舞台背景や道具立ては異なるものの、基本的には冷戦時代のスパイ・スリラーものと同じ感じ。新味が無いという点ではそこが欠点でもあるのでしょうが、お話としては大きな破綻もなくスパイの駆け引きが楽しめます。リドリー・スコットならではの細部描写と、やや地味ながら息をつかせないアクションシーンも健在。イラン人女性とのロマンスは余計といえば余計ですが、まあハリウッド大作としては押さえておかなきゃいけない点なのでしょう。スパイものとして見た場合、脚本上の難点は、歴戦の現場スパイが安易に現地女性に一目ぼれしたうえ命を賭けても救い出そうとするというこの一点のみです。まあ新ボンドだってそうしたからいいのか。

登場人物のキャラは立ってます。メタボ体型でヨレっとしたスーツでヘラっとした表情ながら時折上目遣いで冷たい目が光るスパイマスターを演じたクロウにはかなり痺れました。分かりやすい憎まれ役ではありますが、こんな上司になりたいもんです(笑)。一方のディカプリオは事件は現場で起きているんだ!を地で行く若者役で、こちらはイマイチ造形が甘い気がしますが、まあ主役だし男前だし根っからの善玉なのでこんなものでしょう。おそらく一番光っているのは、ヨルダン情報部のスパイマスターを演じたマーク・ストロング。常にスーツ姿をビシッときめて「私に嘘はつくな」とうそぶく姿は、これぞ本流MI6の流れを継ぐ冷戦スパイだ!

こうしてみると、本作が受けなかった理由は現実の中東情勢そのものにあるような気がします。イスラム系人種を見下すアメリカ、傲慢で無能なCIA、好転する見込みさえないテロの嵐。どれだけエンターテイメントとして楽しめる仕上がりになっているとしても、確かにアメリカにとっては救いのないお話です。アメリカ人の批判的なレビューでは政治的なメッセージ性が強いという点が非難されていますが、これまでの国威発揚映画の政治性は問題にならないことを考えれば、政治性うんぬんというより単に気分悪い事実を指摘されてムカついているだけのような気がします(笑)。