Page 1 of 1

【映画】『戦場からの脱出』

Posted: 2009.Oct.25(Sun) 01:09
by Nor
戦場からの脱出(Rescue Dawn) 2006 アメリカ
Image


<概要>

実話を元にした捕虜脱出もの。ベトナム戦争の最中、ドイツ生まれのアメリカ海軍パイロット、ディーター・デングラー(クリスチャン・ベイル)は初作戦で乗機を撃墜され、あえなく捕虜に。ジャングルのど真ん中の収容施設で完全に希望を失っていた捕虜仲間を励まし脱出を試みる・・。ヴェルナー・ヘルツォーク監督。クリスチャン・ベイル、ジェレミー・デイヴィス、スティーヴ・ザーン出演。日本未公開のDVDスルー作品。


<フツーの捕虜脱出モノにも見えるが・・>

おそらくヘルツォーク監督という人を知っているかどうかでかなり印象が変わる作品。ヘルツォークに興味がある人はラストに違和感を覚えるがまずまず納得という意見が多く、ヘルツォークって誰?という人にはあんまし盛り上がらないけどそれなりの感動実話に見えるという不思議な作品。奇才とも変人ともいわれるヘルツォーク監督作の中では、本作は確かに一般受けしやすい作品のようで、アメリカでは珍しく中規模公開され同監督作品の中では過去最大の収益を出したそうです。

ヘルツォークといえば常に自然と人間、人間の意志や狂気という部分がテーマになりますが、本作でもやはり同じ。戦場が舞台ですが戦争映画ではないです。ベトナム戦争の捕虜という「ディア・ハンター」や「ランボー」でおなじみの舞台設定に加えて、最初から最後までちょっとアメリカ万歳っぽい気配を出してはいるものの、随所に見られる一種異常な雰囲気はやはりフツーのアメリカ万歳的な戦争映画とは一線を画す違和感を感じさせます。

メタ映画的な見所は役者陣の追い込まれブリということになるでしょう。主演のクリスチャン・ベイルは飛行機墜落シーン以外はスタントを使わずに演じたそうで、縛られる・殴られる・引きずられる・吊るされる・流されるに加えて、ウジ虫やヘビまで生でがっつり食べちゃうという追い込まれぶり。さらにベイルのみならず共演の二人も20kg前後の減量を強いられたようで(もちろん率先する監督ヘルツォーク自身も)、あばら骨ガリガリになっちゃう様は唖然。

特に「プライベート・ライアン」でアパムを演じたジェレミー・デイヴィスは、痩せっぷりといい怪演ぶりといい本当にいい味出してます。しかしデイヴィス演ずるジーン役の演出は遺族の怒りを買って訴訟を起こされたというくらい、事実よりも演出重視であることがわかります。海外のレビューなんかをみると、これでもかというくらい本作を貶しているアメリカ人は結構いますね(笑)。

それはともかく、捕虜脱出モノとして見た場合はこういった苛酷な役者への要求が苦難の捕虜生活に説得力をもたせるわけですが、演技過剰と評されるほどのベイルのテンションの高さ、よく言えば常に諦めない楽天性、はっきり言えば「おまえ、ちょっとイカれてるだろ」という演技も完全に演出されたものであることを考えると、「大脱走」の昔から描かれてきたある種格好いい捕虜の脱走劇を描くつもりは監督にはさらさら無かったことがよく分かります。

広大な密林で右往左往するベイルは、眼つきも動きも完全にイっちゃっており、生き延びることだけが目的となった野獣の姿です。これみて格好いい!という思う人はいないでしょう(笑)。そして普通人がドン引きするような人じゃなければ、こういった偉業は達成できないというのは真実なんでしょうね。

それにつけてもラスト10分のくだりは謎です。一般的なヘルツォーク観からすると救助されたシーンでぶっつり終わるか、もっと露骨にシニカルな表現をしそうなものですが、病院に入れられて仲間がCIAの尋問からこっそり空母に連れ帰り、艦長以下の盛大な歓迎を受けて歓喜しながら終わるという展開は、ヘルツォーク賛美者からすると奇異にしか見えません。

この点は最も議論されている点で、余分だ!ヘルツォークも衰えた!とする意見から、事実だから入れたにすぎないとか、陳腐に見えるようにわざと入れたとか、いろんな意見があるようです。ま、真相はわかりませんが、いろんな異常っぷりに目を瞑ってしまえばフツーの捕虜映画に見えなくもないし、異常っぷりに注目すればやっぱりヘルツォークだなと楽しめたりもするので、幅広い層にオススメできる(?)映画でしょう。

B2jIKkxSsBg

日本語字幕版トレイラー